
「開かずの踏切」実況中継
朝の通勤ラッシュ。乗車率150%、200%は当り前。時差通勤が増えつつあるといっても、通勤地獄は一向に解消する気配はありません。その上、朝の通勤を妨げる悪魔のような障害物が、開かずの踏切。サラリーマンたちのため息まじりの悲鳴が今日も聞こえてきます。
まず最初は西武新宿線・井荻駅踏切。大胆にも、首都東京の大動脈・環状8号線を横切り、朝のラッシュ時には車、車、また車の大渋滞。踏切通過の平均所要時間は何と30分。
−ドライバーにインタビュー−
「毎日がこの状態だからもう諦めじゃないですか」−そこに踏切があるっていうご感想は?
「いやもう血が上って冷めましたよ」−車内ウォッチング−
*あ、あのおばさん、渋滞中の車内で白髪染めしてるぞ。(睨まれて)あ、失敬。
*こちらの運転手さんは居眠りどころかぐっすり寝込んじゃってますねえ。もしもーし、踏切上がってますよぉ!−緊急事態発生!!−
踏切取材中のカメラがショッキングな映像をとらえた。無理をして踏切に進入した大型トラックが渡り切れずに線路上で立往生。警備員の必死の誘導で、反対車線に頭を突っ込んで間一髪脱出。事無きを得たが、この踏切では週に1〜2度は電車が緊急停止することもあるという。※井荻トンネルが平成9年4月30日に完成し、交通は完全立体化された。
さて、お次は自転車通勤泣かせの踏切。ここ東小金井は、駅の北口と南口を結ぶ歩道橋はあるものの、残念ながら自転車は登れない。さらに悪いことには、この踏切、一旦閉まると15分以上も上がらない名うての開かずの踏切。というわけで、デンジャラスな自転車の脱出劇が繰り広げられるのです。
−踏切ウォッチング−
開くかと思ったら、またまた通過列車。でも、ワタシ待〜つ〜ワンとお犬様もちゃんと待っているではありませんか。ところがどっこい、人間様は老いも若きもバイクも自転車も、くぐってくぐって、さあさあさあさあ、あなたも御一緒に。おいおい、縄のれんじゃないんだよ、そこのオバさん!あなた!!※中央線三鷹〜立川間の連続立体化事業は、現在施工中である(今のところ工事の準備中のようで、大々的な工事は全く始まっていないが)。
−−−以下、ジャストミート福澤=NTVアナウンサーの踏切実況−−−
ただ今、午前7時30分、京成船橋駅前に来ております。実は、ここがわが踏切特捜班が認定いたしました東京近郊で最も過激な、サラリーマンと踏切の壮絶なるバトルが展開されるといういわゆる開かずの踏切なんですねえ。成田方向からやってまいりましたお客さんが、200m先にありますJR船橋駅に乗り換えるためには、この踏切を渡らざるを得ないということで、様々な人間模様が展開されるというわけなのであります。
その開かずの踏切のピーク、ラッシュはもう間もなくであります。ならば早速、今宵のメーンイベントをご紹介いたしましょう。
(ゴングの音)
さあ、遮断機が上がると同時に一斉に踏切を渡っております。しかし、すぐに遮断機が下りてまいりました。まさに遮断するという状況にふさわしい。今、この人垣の中にパン食い競争を思わせるような遮断機が下りてまいりました。しかし、まだまだ、何のその、おっと片手で押し上げながら学生がいとも平然と、こんなのは当り前だと言わんばかりにくぐっていきます。脱出、エスケープを図っております。これは危ない、もうすぐ電車が来ますよお。みなさん、気をつけて下さい。
ああ、電車がもう目前に迫ってまいりました。非常にデンジャラスなひとときとなっております。ここで遮断機が開くのを待っている人たちをウォッチングしてみましょう。
*(あくびをするサラリーマン)
あああ、口を大きく開けております。開かずの踏切で口を大きく開けている。さあ、上り列車がやってまいりました。
*(ヘッドホンステレオをいじっているサラリーマン)
そしてこれは、何か、ああ、英会話の勉強でもしているんでしょうか。小さなカセットテレコのその使い方がまだ完全にマスターされていないといった状況であります。*こちらはファーストフード。ハンバーガーをほおばる学生でございます。随分と寝ぼけまなこであります。
−場面変わって遮断機をくぐり次々と渡る人たち−
遮断機が閉まっているのを全く意に介せず、このOL風の女性は遮断機を「何、私の前に立ちはだかっているの」と憎々しげに手に取って、そしてクリアーしてまいりました。 さあ、まだまだ電車の姿は見えません。ならば大丈夫と言わんばかりにどんどん渡って行きます。(若者がレールにつまづいて転びそうになった)
あーっと、どうしたんですか、気をつけて下さーい、お兄さん。年の頃は25〜26でありましょうか。現在、試合時間は10分を経過いたしました。午前7時40分であります。
徐々に遮断機が今、下りてまいりました。そしてお客さんの歩調も速まります。小走りになります。おーっと、遮断機に頭をヒット、ジャストミートしてしまいました。そしてOL、サラリーマンがくぐっていきます。
(踏切小屋の係員がブザーを鳴らす)
「危ないですよ、くぐらないでください」さあ、駅員さんの警告も完全に無視して、次々と渡っていきますが、さすがにリンボーダンスでくぐり抜けようというひょうきんなお客さんはいないようであります。
この寝ぼけまなこのOLは、一瞬くぐりかけようとして、おっと身の危険を察知したのか、思い止どまりました。その心がけ、忘れないでくださいねえ。
(京成船橋駅、藤里 清駅長)
「ぜひお願いなんですが、最低のモラルと言いますか、危ない状態の時には渡ってはいけない、これはどなたもわかっていると思いますので、無理な横断は止めていただきたいと思っております」さあ、試合時間20分を経過いたしました午前7時50分。ますますヒートアップしてまいりました。
この列車が行けば必ずや遮断機が上がると誰しもが確信しております。さあ、どうだ。ん、んん、上がりません!遮断機が上がりません!!さあ、まいったぞ。さあ、このお父さん(中年のサラリーマン)も上り列車の行方を見つめております。そして、上り列車。赤色の列車が入線してまいりました。これで開くでしょう?開きません!開きません!!開かないどころか警報音の連打、連打、まさに早鐘、警鐘の連打であります。徐々に左、右へと首を振るお客さんの数が増えてまいりました。警報音はまさに連打であります。
おーっと、その前をこともあろうか、これ見よガシガシに京成スカイライナーであります。まさにこの、海外旅行を楽しもうというお客さんを乗せていく、これ見よがしのカラフルな列車でありますが、さあ、今、遮断機が上がって、一斉に猛然とポールポジションからスタートダッシュであります。目指すはJRの船橋駅であります。
しかし、この遮断機は一旦上がったんですが、警鐘は打ち鳴らされております(通勤客の頭、頭、頭…)。いやぁ、黒々としております。まさにミヨイクログロであります。おーっと、レールの上を歩いております。渡り板からあふれ出してしまった。あっと、サラリーマンの、靴が脱げました!さあ、靴を拾ってスタコラサッサとJR船橋駅方向へ向かっております。
最後に悠然と渡ってきた中年サラリーマンのお父さんであります(遮断機を憎々しげに押し上げこちらを睨む)。心中お察し申し上げます。
私、同じ会社員として、本当に、つくづく、心を込めてエールを送りたいと思います。頑張れ、ニッポンのサラリーマン!
※こちらも、この踏切を含む区間の高架化が現在進められている。この付近は、過去に線路冠水事故が起きたこともある。
*本稿を書くに当たって、「通勤難所!開かずの踏切」(NTVニュースプラス1、93.11 .22放送)を参考にしました。
初出:鉄道友の会東京支部日曜サークル機関誌「休日運転」bP69(94.2.20)
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