
東武佐野線の車内で見たもの
92年10月7日、東武佐野線に乗車する機会があった。館林発葛生行(4両編成)の車内に入ると乗客のほとんどは地元の高校生と思しき男子学生である。一種異様な雰囲気の中、電車が発車すると煙草の煙が上がり始めた。それも一人二人ではない(彼らは三々五々下車していったが、ほとんどの者が乗車中煙草を口にした)。注意しようかとも思ったが、相手は多数であり、万が一手出しされたりしてはばかばかしいと思いつつ我慢していた。彼等の服装や鞄を見ると一見していわゆるツッパリという風貌である。狡猾なことに彼らは停車中はおとなしくしており、電車が動きだしてからは座席(ロングシート)に寝そべったり、菓子を食べちらかしたり目を覆いたくなるような光景が終点まで続いた。彼らが降りた後の車内は床に吸殻やゴミが散乱し、天井は煙草のヤニで変色していた。
考えてみると、走行中の電車内は一つの密室であり(運転士や車掌はそれぞれの職務に専念している)、その中で起こる事態は全て乗客によって処理されなければならない。しかし、ここでは監視の目となり得る学生以外の乗客がほとんどいないのである。地方ではよくあることだが、彼等も卒業と同時に車を手にし、電車に乗らなくなるのだろう。それだけに通学の数年間が、公共の場におけるマナーを身につけるべき貴重な時間だと思うのだが。
この日の光景は一日限りのものとは到底思われず、結果的に見て見ぬふりをしている東武鉄道の責任は問われないのだろうか。鉄道会社は、乗客に最低限のマナーを守らせ、快適に移動できるようにする責務はあるはずだ。社員を車内に巡回させたり、場合によっては警察の協力を仰ぐべきではないか。
また、東武鉄道では末端区間(館林・新栃木以遠)は車内喫煙可能となっているが、そのほとんどを占めるロングシート車には灰皿の設備はない。いきおい、床下には吸殻が散らばることになり、ひいては他のゴミも放置するのが当り前という風潮につながっているように思える。仮に灰皿を設けるにしても、ドア脇の手すりの部分しか設置は無理だろうし、煙草を吸う者が吸殻を捨てにわざわざ席を立って灰皿の所まで行くとは思えない。かと言って座席の中間部に灰皿を設けると隣に座った人の服に煙草が触れる恐れがある。
何よりも困るのは、世間でこれだけ公共の場での喫煙が問題になっているのに、禁煙車がないために非喫煙者は走行中の車内で煙から逃れることができないことだ。このことは、冬場や雨天時等窓を締切っている時には切実な問題となる。都会とは事情が違うにせよ、乗車時間もそれほど長くないことから全区間禁煙とするか、喫煙できる車両を特定し、その車両は座席を喫煙に適した配置に改造すべきだと思う。
それにしても、日本を代表する大手私鉄の車内でこのような不愉快な思いをするとは意外で、東武鉄道の関係者や読者の御意見を伺いたいところである。
初出:鉄道友の会東京支部日曜サークル機関誌「休日運転」bP56(93.1.17)
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